診療科・部門
放射線治療科

安全な放射線治療を提供する
長野赤十字病院
高精度放射線治療センター

設備、人材を駆使し、確認(検証)を行い、
安全な放射線治療を提供できるよう
最善を尽くします。

概要

  • 当院では放射線治療として、体外から放射線(エックス線、電子線)の照射を行う体外照射と、放射性医薬品を投与するアイソトープ治療(RI治療、内用療法)を行っています。
  • 放射線治療装置を2台保有しています。ともに高精度の放射線治療がおこなえる装置です。定位放射線治療(頭部、体幹部)、強度変調放射線治療、強度変調回転放射線治療、これらを正確に行うためのコーンビームCTやエックス線透視画像による画像誘導放射線治療を実施できる体制が整っています。
  • 専用の治療計画用CT装置や治療計画を行う治療計画コンピュータ、治療計画の補助をするコンピュータなど高精度放射線治療を行う上で必要な装置が整備されています
  • また、装置の性能が維持されていることを担保するための内部での日々の品質管理・品質保証活動とともに、第三者機関の検査も受けています。
  • 医師(放射線治療専門医)や放射線技師(放射線治療専門放射線技師、放射線治療品質管理士)、医学物理士、看護師など専門性の高いスタッフが配置されています。

診療の特色

高精度放射線治療とは

当院で行っている高精度放射線治療には、以下の治療技術が使用されています。

  • 強度変調放射線治療(IMRT)、強度変調回転放射線治療(VMAT)
  • 定位放射線治療(SRT)
  • 画像誘導放射線治療(IGRT)、体表面画像誘導放射線治療(SIGRT)

放射線治療の効果を高めるために治療方法の工夫が色々試みられてきました。がん細胞に対する放射線の効果を増強する、あるいは正常細胞への障害を防ぐ試みです。生物学的なアプローチとして放射線増感剤・防護剤の利用、照射の分割方法の工夫、抗がん剤の併用などが研究されてきました。

もうひとつのアプローチが、より多くの放射線の線量を病巣部に照射し、正常部にはなるべく照射されないようにする方法です。これはコンピュータ技術の発展、装置や治療方法の進歩により近年著しく進んできている領域です。
高精度放射線治療は、放射線治療時に専用の装置・器具を用いることで目標の領域に高精度な正確さをもって放射線を集中させて行われる治療方法の総称です。特殊な固定具による照射位置誤差の低減、腫瘍あるいは正常臓器の移動をモニタし制御することによる放射線照射範囲の最小限化、コンピュータの複雑な計画によって腫瘍に近接する正常構造の線量のみを下げて放射線を投与する強度変調放射線治療(intensity-modulated radiotherapy;IMRT)や、比較的小さな病気に多方向から放射線を集中して照射する定位放射線治療(stereotactic radiation therapy; SRT)といったものがあり、これらを複数組み合わせて高精度の放射線治療を行います。

治療時に、治療寝台上で照射部位の画像を取得して治療計画時の画像との位置のずれを検出しては位置を修正し位置ずれの誤差を最小限にして照射を行う治療法を画像誘導放射線治療(image-guided radiotherapy;IGRT)といいます。強度変調放射線治療などの複雑な照射と組み合わせて行うことで、より正確な放射線治療を行うことが可能になります。コーンビームCTやエックス線透視を治療寝台上で行える装置が必要で、当院にはこれらの装置が備わっています。

左:斜め二方向の透視画像で位置あわせを行う
右:エックス線管球とフラットパネルが体の周囲を回転しコーンビームCTを撮像し位置あわせを行う
前立腺がんの治療例:直腸を避け、凹んだ形で照射できるのがIMRTの特徴

通常の放射線治療では照射範囲におけるエックス線強度は均一ですが、強度変調放射線治療は照射野内のエックス線強度を変えて照射することで、病巣の形にわせた線量分布を作る技法です。治療線量に近い放射線が照射されると障害を起こす危険性の高いリスク臓器が腫瘍の近くに存在する場合、病変部とリスク臓器の間に急峻な線量勾配をつくり、病巣部には治療線量を投与し、危険臓器にはより少ない線量におさえることが可能です。
前立腺がんや頭頸部がんでは必須といって良い治療方法です。照射範囲内のエックス線強度差はコンピュータによる複雑な計算(最適化)によってなされます。正しい場所に照射できるよう画像誘導放射線治療と組み合わせて行われることが一般的です。

頭頸部がんの治療例

頭頸部がんでは、多くの場合、原発巣とともに頸部リンパ節も系統的に放射線照射を行います。頸部全体を照射すると唾液腺にも多くの線量が照射されます。とくに耳下腺に照射されることで唾液量が極端に減少し、強い口内乾燥が出現します。従来の治療では治療後も唾液量の回復はあまり期待できませんでした。耳下腺の線量を落とすことが可能なIMRTで照射することで唾液量は一時的に減少しますが、治療後数カ月程でほぼ治療前の唾液量まで回復するとされています。

このように、病巣部にはきちんと治療線量と投与して、危険臓器の線量を低下させ障害をふせぐことが可能な治療がIMRTですが、複雑な照射を行うために照射時間が長くなることが欠点です。そこでより新しい照射方法として開発されたものが強度変調回転放射線治療(volumetric modulated arch therapy;VMAT)です。照射口(ガントリー)が体の周囲を回転する間に、照射野の形状を複雑に変更したり照射の強さや回転の速度を変えたりすることにより通常のIMRTと同等かそれ以上の良好な分布の放射線治療を短い照射時間で実行が可能です。

左:転移性脳腫瘍の脳定位放射線治療
右:肺がんの体幹部定位放射線治療

よく知られている高精度放射線治療の一つに定位放射線治療があります。いわゆるピンポイント照射といわれている方法で、通常の放射線治療よりも1回に大量の放射線を短期間に照射します。小さな脳腫瘍やがんの脳転移症例に対する脳定位放射線治療、早期肺癌やがんの肺転移、肝臓がんやがんの肝転移などに対する体幹部定位放射線治療があります。手術より体への負担が少なく同程度の治療効果が得られます。

スタッフ

放射線治療は、非常に専門的な分野であり、その実施については放射線治療に十分習熟した医師(放射線治療専門医)が必要です。
当院は常勤放射線治療専門医2名が診療にあたっています。また放射線治療は医師だけの医学的な観点のみでは行うことはできません。治療装置の操作や保守、治療計画コンピュータでたてられた計画の妥当性の検証などの工学的物理学的な方面の知識や技術を結集して行われるものです。
そのために装置の操作や保守管理に習熟した専門技師(放射線治療専門放射線技師)や治療の精度を管理する業務を行う技術担当者(放射線治療品質管理士、医学物理士)の役割が大きいといえます。

当院では常勤専従の放射線技師6人が放射線治療を担当しており、うち3名が放射線治療専門放射線技師で3名が放射線治療品質管理士、2名が医学物理士の資格を持っています。
放射線治療には多くの病気と闘う患者さんがいらっしゃいます。専任の看護士4人が配置され、常に2人以上の看護士が放射線治療センター内に勤務し、少しでも安心して放射線治療を受けることができるように患者さんの病状をお聞きし相談に応じています。患者さんの受診時の最初の顔である受付の事務を担当する事務員が2人、裏方で診療を支えている看護助手が2人勤務しています。放射線診断関係の業務もおこなっていますが、総勢17人が高精度放射線治療センターの業務を担っています。

装置

放射線治療装置

当院の放射線治療装置はいずれも、高精度放射線治療が可能な装置です。2.5mmないし5mm幅の精密なマルチリーフコリメーターを搭載しており、病巣を正確に照射できます。また治療装置でコーンビームCTやエックス線画像を撮像することができ、正確な位置あわせが可能です。定位放射線治療、強度変調放射線治療などの高精度放射線治療を行うことが可能です。最先端の強度変調放射線治療である強度変調回転放射線治療により短時間で強度変調放射線治療を行うことが可能です。

Elekta社製 Versa HD

令和4年度に放射線治療装置1台を更新し、Versa HDを導入しました。リーフからのエックス線の漏れが少なく、リーフの移動速度が今まで以上に速いため、複雑な照射をより正確に行うことができるようになりました。また照射できる範囲が40cmx40cmと大きいことや、照射のアームの自由度が高いこと、体の中心から離れた位置でもコーンビームCTが撮影できることなど、体幹部などの治療に適した性能を有しています。体表面画像誘導放射線治療(SIGRT)であるCatalystシステムが併設されており、体表面から位置情報を確認することで、体にマークをつけなくても治療ができるようになりました。また、治療中の体の動きも見ることができて、動きのあるターゲットに正確に照射できるようになっています。

VARIAN社製 Novalis TX

中心部のマルチチーフコリメーターが2.5mm幅と小さく、小さい病変のより精密な治療に適しています。また斜め二方向からのエックス線透視像で位置あわせを行うことが可能で、短時間で正確な位置あわせができます。また時間あたりに照射できる放射線の量が大きいので一度に大量の放射線を照射する場合でも短時間での治療が可能です。頭部の定位放射線治療などに力を発揮します。

治療計画CT:キヤノンメディカルシステムズ社製 Aquillion Exceed LB

現代の放射線治療は、CT画像上に描かれたコンピュータシミュレーションにもとづき行われます。そのための治療計画専用のCTは必須です。放射線治療計画のためには放射線治療を行うのと同じ状態でCTを撮像する必要があり、固定具などをつけた状態でCTを撮像しなければなりません。そのために通常のCTよりも開口径の大きいタイプのCTです。

治療計画コンピュータ:Eclipse, iPlan, Monacco/治療計画支援コンピュータ:Velocity

放射線治療計画はCT画像上に照射するべき標的の範囲や逆に照射したくない正常臓器などを入力して、標的に十分な量の放射線を、正常組織により少ない量の放射線を照射するように計画します。強度変調放射線治療や強度変調回転放射線治療、定位放射線治療ではそれぞれ最適の治療計画装置があります。このため当院では複数の治療計画コンピュータを使用しています。

PET/CTなどとの診断装置との連携

SPECT/CT装置
PET/CT装置

放射線治療では病巣の範囲をCT画像上に正確に同定する必要があります。当院はPET/CTや3テスラMRI、320列高精細CT、SPECT/CTなどの最先端の診断装置が整備されています。これらの画像を院内ネットワークから必要に応じて随時放射線治療計画に利用できるシステムを構築しています。検査時と治療計画CTとの体位姿勢は当然異なりますが、治療計画支援コンピュータで治療計画CTと合致するように変形して使用します。

品質保証と第三者検証

放射線治療装置の出力など装置の性能精度は変化する可能性があります。品質管理品質保証の検証作業を計画的に行っています。同時に公的機関による第三者検証も受診し装置の精度管理を確実にしています。
また院内に放射線治療品質管理委員会を設置し、委員会には外部委員を委嘱し監査を受け、放射線治療の品質管理を行っています。

アイソトープ治療(RI治療、内用療法)

注射や内服により投与された放射性同位元素が病巣部にあつまり、病巣部に集中して放射線を照射し病巣を治療する治療法です。
病巣部に集中してお薬があつまるので、効率的で副作用の少ない治療です。今後、抗体などの研究が進んでくるとさらに発展し治療適応の拡大が期待できる分野です。

甲状腺機能亢進症に対する放射性ヨード内用療法

甲状腺機能亢進症は甲状腺が過剰にホルモンを産生してホルモンの過剰な状態になり、症状をきたす疾患です。甲状腺に取り込まれる放射性ヨードを投与して、甲状腺組織を破壊しホルモンの分泌を抑えます。
外科的治療や抗甲状腺剤の治療がほかにありますが、手術ができない患者さん、手術を受けたくない患者さん、抗甲状腺剤の副作用がある患者さんなどが対象になります。

分化型甲状腺癌全摘後残存甲状腺組織外来アブレーション

正常な甲状腺組織への分化傾向のある甲状腺癌の細胞は、正常甲状腺と同様にヨードを取り込む性質があります。そのため放射性ヨードを投与してがん細胞を破壊することが可能です。甲状腺切除手術後に、わずかに残存するかもしれないがん細胞を破壊することなどを目的に放射性ヨード内服の治療を行います。術後にこの治療を行うことで治療成績がよくなることが過去の研究で示されています。
従来は隔離病棟に入院する必要がありましたが、特別に甲状腺全摘後の治療に限り外来でできるようになりました。

B細胞型悪性リンパ腫に対するイットリウム-90標識抗体療法

B細胞という種類のリンパ球を起源に持つ悪性リンパ腫の治療に用いられる薬です。イットリウム-90というベータ線を放出する放射性同位元素にB細胞リンパ腫細胞の表面に付着する性質のある抗体をつけた薬品です。抗体により細胞を破壊すると同時に放射線により周辺の腫瘍細胞も破壊することができます。

骨転移を有する去勢抵抗性前立腺癌に対するラジウム-223による治療

ラジウムもカルシウムと同様の体内分布をします。ラジウム-223はアルファ線を放出し、薬の周辺の腫瘍細胞を破壊する働きがあります。前立腺癌で骨転移のある患者さんではホルモン療法がまず行われますが、効果がなくなる場合があります。このような場合でも内臓転移がなければこの治療で病状を抑えることができます。アルファ線は他の放射線より腫瘍細胞を殺す働きが強いため、生存期間の延長も期待できます。アルファ線は数mm以下のごく短い範囲にしか届きませんので他の人への影響はほとんどありません。

診療実績

放射線治療患者数

原発部位2022年2023年
脳・脊髄腫瘍1216
頭頚部腫瘍4847
食道癌2217
肺、縦隔8683
うち肺8480
乳癌96104
胃、小腸、大腸、肝膵2563
婦人科腫瘍1122
泌尿器系腫瘍4037
うち前立腺2219
造血器リンパ系6169
皮膚、骨、軟部55
その他 悪性33
良性疾患22
脳転移4359
骨転移88103
特殊照射2022年2023年
定位照射1434
体幹部5554
うち肺2125
うち肝2724
6988
強度変調
放射線治療
頭頸部5954
前立腺1311
中枢神経2927
その他5066
151158
全身照射109
アイソトープ治療2022年2023年
I-131 甲状腺機能亢進症治療31
I-131 甲状腺癌全摘後アブレーション13
Y-90 ゼヴァリン 悪性リンパ腫治療00
Ra-223 ゾーフィゴ 前立腺癌骨転移治療20

スタッフ紹介

佐々木 茂 (ささき しげる)
役職:
部長
専門分野:
放射線腫瘍学、放射線治療
卒業年:
平成2年卒
資格等:
日本医学放射線学会放射線治療専門医・研修指導者、日本がん治療認定機構がん治療認定医
酒井 克也 (さかい かつや)
役職:
副部長
専門分野:
放射線治療
卒業年:
平成21年卒
資格等:
日本放射線学会放射線治療専門医、がん治療認定医
岡嵜 洋一 (おかざき よういち)
役職:
医師
専門分野:
放射線治療、インターベンショナルラジオロジー(各種血管内治療、CT USガイド下穿刺による検査・治療)
卒業年:
昭和56年卒
資格等:
放射線治療専門医

診療担当一覧

 
初診 佐々木 茂
酒井 克也
佐々木 茂
酒井 克也
遠藤優希(非)
佐々木 茂
酒井 克也
岡嵜 洋一
佐々木 茂
酒井 克也
佐々木 茂
酒井 克也
岡嵜 洋一
再診 佐々木 茂
酒井 克也
佐々木 茂
酒井 克也
遠藤優希(非)
佐々木 茂
酒井 克也
岡嵜 洋一
佐々木 茂
酒井 克也
佐々木 茂
酒井 克也
岡嵜 洋一