診療科・部門
産科

概要

産科では、いわゆるハイリスク妊娠の治療に対応しており、年間60-80件ほどの母体搬送を受け入れています。糖尿病、高血圧、精神疾患、血液疾患や心疾患などの合併症妊娠に加え、妊娠高血圧症候群、前置胎盤、多胎妊娠、切迫早産などの合併症妊娠の管理を行うことができます。ハイリスク妊婦の治療は、随時小児科と連絡を取りながら行っており、妊娠26-7週以降の早産に対応可能です。

ローリスク妊娠についても積極的に受け入れています。産科も小児科も常に当直医が待機しており、また多数の助産師、看護師が分娩に対応しています。母体搬送される患者さんたちも、もとはローリスクとして管理されていた方々であり、先が読めないのが産科診療の特徴でもあります。

一寸先には落とし穴があり一歩間違えば転げ落ちてしまうのが分娩です。「ローリスク妊娠」と考えられる妊婦さんや赤ちゃんたちは、穴が少ない道を歩いているとも考えられますが、それでも必ず穴はあります。そして、誰が歩いている道に穴があるのかは知り得ないのです。当院のような総合病院での分娩は、ちょっと窮屈な面はあるかもしれませんが、万が一足を踏み外しても引っ張り上げてあげられるように、命綱を付けながら穴のある道を歩くことができる、ということかもしれません。(もちろん、開業医さんでの分娩を否定するものではありませんし、当院での分娩が100%安全とも言い切れません。搬送されてきた患者さんについても、救命するために総力をあげて全力を尽くしています。)

北信地域では「最後の砦」のような地域周産期母子医療センターです

  • 常勤産婦人科医師8名、常勤小児科医師9名が所属し、NICU(新生児集中治療室)が9床稼働しています。
  • 胎児の状態にもよりますが、26週前後から受け入れが可能です。
  • 北信地域では「最後の砦」のような役割を果たしており、近隣のクリニックはもちろん、南長野医療センター篠ノ井総合病院、中野市の北信総合病院、須坂市の信州医療センター、上田市の上田医療センター、佐久市の佐久医療センターなど、周辺の総合病院からの母体搬送も受け入れています。

産科危機的出血にも万全の対応が可能です

  • 産科医療の発展に伴い、日本の妊産婦死亡率は大きく低下しました。1950年には年間約4000人の母体死亡がありましたが、この10年ほどは年間50人前後で推移しています。このうちの3割前後を分娩時の多量出血が占めていると考えられており、産後出血への対応は産科医療の中でも重要なテーマとなっています。
  • 当院では、経腟分娩の患者さんについても全員に分娩時の点滴を行っています。点滴を行うことで、薬剤を迅速に血管内に投与することが可能となり、分娩時の出血に素早く対応可能です。出血以外の緊急事態にも役立ちます。
  • 多量出血時の子宮摘出を回避するため、子宮内に挿入するバルーンを採用しています。弛緩出血などでの危機的出血の際、子宮内に留置することで止血を試みています。
  • 子宮内バルーンで出血のコントロールができない場合、放射線科医に依頼して子宮動脈塞栓術を行う場合や、手術が必要となるケースもあります。
  • 当院では、5名の放射線科医が常勤していることに加え、車で7分という近距離に血液センターがあり、予期できない多量の出血にも可能な限り子宮を摘出することなく対応することができています。
近隣に血液センター(車で7分)

麻酔科、小児科と連携し、安全なお産の環境を提供しています

  • 帝王切開では、緊急帝王切開も含め全例麻酔科医師が麻酔を担当し、小児科医師が手術に立ち会っています。
  • 術中に出血が多くなるなど、母体の状態が急変しても麻酔科医に全身管理を安心して任せることが出来るため、産婦人科医は手術に集中できます。
  • 小児科医が帝王切開に立ち会うことで、予想外に具合の悪い赤ちゃんが産まれた場合にも迅速に蘇生を開始することができ、大きな安心につながっています。
  • 経腟分娩の場合も新生児に何か問題があった場合は小児科医師がすぐにかけつけてくれる体制が整えられています。
  • 小児科医とは毎週カンファレンスを開催し、ハイリスク妊婦の情報提供や、生後NICUに入院した赤ちゃんのその後の経過について話し合っています。

各科やさまざまな部門との連携

  • 当院は、医師200名以上、病床数680床(県内で2番目)、標榜診療科目:38科目とさまざまな診療支援部門を有し、県内では信州大学病院に次ぐ規模の総合病院です。
  • 麻酔科、小児科に限らず、院内各科との連携を取りながら、ほとんどの合併症妊娠に対応することが可能です。
  • 薬剤部や医療社会事業部、栄養課、感染管理室など、院内の総力を上げて、安全な妊娠分娩管理、そしてその後の育児支援につなげています。

各種出生前診断を受けることができます

  • NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査):妊娠9~10週以降
  • 母体血清マーカー検査:妊娠15~20週
  • 羊水検査:妊娠15~16週以降

当院で出生前診断についての相談・カウンセリングを希望される方は、なないろ外来を受診してください。

医療の質を向上させるための取り組みをご紹介します

分娩の振り返り検討会

急速遂娩(吸引・鉗子分娩や緊急帝王切開)例や臍帯動脈血pHが低値だった症例、その他重症患者などを対象として、毎月病棟スタッフと合同カンファレンスを開催しています。症例の振り返りを日々の診療に反映し、若手医師や新人スタッフの教育を行っています。

検討会を開始する前後で、周産期予後が改善した(臍帯動脈血pHが低値の症例が減った)ことを報告しました。

NICU退院前の付き添い入院

早産などの理由で赤ちゃんがNICUへ入院した場合、長期の入院となることも稀ではありません。母親は4−5日間の入院の後退院し、NICUへ面会に通い、NICU退院後は自宅で育児を始めることになります。

当院では、赤ちゃんがNICUを退院できるようになったら、一度産科病棟で赤ちゃんへの付き添い入院をすることができます。2−3日の間に育児指導や授乳指導などを受けることで、母親の身体的、心理的支援や不安の軽減に努めています。

胎児スクリーニングエコー外来

2020年より、超音波専門医による胎児スクリーニングエコー外来を開始しました。

近隣のクリニックで分娩予定の妊婦さんが、安心して分娩に臨むためのお手伝いをしています。(当院で妊婦健診を受けられている妊婦さんは、毎回認定超音波検査士を含む検査技師が詳しくエコーをみています。)

近隣の施設に通院中で受診を希望される場合は主治医にご相談ください。

TOLAC(trial of labor after cesarean delivery

  • TOLAC(trial of labor after cesarean delivery:帝王切開既往妊婦に対して経腟分娩を試行すること)を選択できます

TOLACを希望する妊婦さんは一定数存在しますが、近隣施設はTOLACを取り扱っておらず、これまで当院でも人員不足のため受け入れができない状況にありました。幸い、常勤産婦人科医師数が増加しており、地域のニーズに応えるためにも2024年よりTOLACの受け入れを開始しました。

TOLACは母児共にリスクを伴うため、起こりうるリスクと当院での緊急事態への対応の体制について詳しくご説明させていただいた上で選択していただきます。